たばこの火

気の長ぁい長さんと友達の、気の短い短七さんがおしゃべりをしている「長短」という落語があるが、その中にもたばこの話が出てくる。
『短七さん、怒らない?・・・おめぇが今たばこを吸って、三服目のやつを威勢よくぽーんと叩いたたばこの火が、その煙草盆にへぇらねぇで、おめぇの左の袖口から、うまくへぇっちゃった。おや、あんなところに入ったが、いいかなぁ、と見てると煙(けむ)が出てきて、今だいぶ燃え出したよ。ことによったらそらぁ、消したほうが・・・』

 

昔は、ライターもマッチもなくて、どうやってたばこの火をつけてたのかなぁ、と「たばこと塩の博物館」で煙草盆や携帯用のたばこ入れを見ながら(「煙草入れ」の記事はこちら)なんかしっくりこなかったんですが、ちょっとスッキリしたので・・・。

家でたばこを吸うときは、煙草盆に入れてある道具を使ったということで、煙草盆には、
hiutiishi・鋼鉄でできた「火打ち金」(木の取っ手に鉄鋼をはめ込んだもの)
・堅い石英質の「火打ち石」
・付け木(針葉樹を薄くそいだ板の端に硫黄をつけたもの)
・火のつきやすい火口(ほくち)
がはいっていたんだそうです。

火打ち石を火打ち金に打ち下ろすと、火花が飛び散って、その火花を消し炭や燃えやすい繊維などで作った火口(ほくち)の上に落として、ついた火を息を吹きかけて強めてから付け木に移す。
これだけの手間暇をかけて煙草に火をつけたんだそうですよ。
実際には、ついた火を、木炭の火種を灰に埋めておいて消さないようにしていた、ということもやっていたんだそうですが。
どんなに慣れた人でも30秒位はかかったとか。

そこで、次に気になったのが腰につけたたばこ入れ。どこかのおうちにおじゃました時は煙草盆をお借りできたとして、外で吸うときは?
これら必要な道具一式を火打ち袋に入れて持ち歩いたんだとか。

 

「絵本和歌浦(えほんわかのうら)」に二人の木こりさんが煙草に火をつけようとしている絵があります。
国立国会図書館デジタルライブラリーの「日本風俗図絵. 第5輯」の98/105ページ
これによると左手には火打ち石と火口(ほくち)を持っているらしいけれど、やけどをしないのかしら。

茨城県の石屋さんの娘として育った昭和初期に生まれた母からの話では
昔の職人さんは、キセルから手の上にポンと吸い終わった火種を乗せて、次のたばこをキセルに詰めて、手の上の火種で火をつけていたよ、と。すごいよね!

 


参考:大江戸しあわせ指南 身の丈に合わせて生きる(小学館101新書)